対談 遠藤周作 - さとみ (男性)
2024/04/30 (Tue) 08:06:31
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「狐狸庵ぐうたら怠談」 その6(最終回)
遠藤 いまの若い歌手の子たちなんだか、正直にいってぼくは、あれは歌じゃなくて顔だと思ってるんだけどなあ。
美空 先生も感じてらっしゃるでしょうけど、みんな動きすぎるんです。踊りすぎる。あんなに踊ったら正確には歌えないはず。だから歌詞が分かりませんでしょ。何を言っているのか。
遠藤 そう、分からない。
美空 私はあれが気に入らない。言わせていただけば、歌というのは言葉をきいている人に知らせて、それに節がついてこなければいけないのに、内容がぜんぜん聴き取れない。動きすぎるから、そっちに気を取られてしまうんですね。私なんか動くといっても、間奏で動いていますから。
遠藤 でもその中でも有望な人はいますか。
美空 やっぱり演歌のほうでいますね。でも自分の技術で歌っちゃってる人もいるから。
遠藤 あなたの場合はやはり厳しく言われたの。
美空 ええ、今でも言われますけど。よく、馴れてきて崩して歌う人がいるでしょ。あれが自分のウマさを出そうとして歌っているんだったら、間違いだと思うんです。
遠藤 やはり初心忘るべからず。
美空 外してみたり、言葉をずらしてみたりってことに、聴いてるお客様は満足してないですね。やはり元の歌がお好きなんですから、それは大事にしようと思っています。
遠藤 いらいらしたり、怒っているときというのは、歌に響くものですか。
美空 昔は大いにあらわれちゃったんです。塩酸事件のあと、客席から「塩酸ぶっかけてやろうか」なんて野次が飛んだことがあったんですが、今みたいに大人になっていなかったから、顔つきがいかにも機嫌わるそうになっちゃう。それから客席で一升ビンを股ぐらに挟んで焼酎をプンプン匂わせてる人もいたけど、やっぱり「ちょっとおじさん、やめてちょうだいよ」なんて言っちゃう。ハッとやめてくれるんですけど、言った自分はとても悲しくなるんです。
遠藤 「悲しい酒」だなあ。そうか、ステージからそんなこと言ったの。今はそれに比べると謙虚になったなあ。
美空 今はそういう注意をするにしても、昔とは全く違う雰囲気になったのが自分でも分かります。
遠藤 やんわりとね。それ、お母さんが亡くなってからなの。
美空 それはもっと前からです。おふくろが四年間準備を与えてくれましたから。
遠藤 苦労があなたを謙虚にさせた。でも、美空ひばりは変わったね。こんなに積極的にしゃべるようになったもの。
美空 いまバカみたいに子供っぽく話したりできるのは、以前はおふくろが遮っていてくれた汚いもの冷たいものに、私の抵抗力がついてからぶつかることができたということで、おふくろには感謝しているんです。
遠藤 良くも悪くも、お母さんは日本の母だなあ。あなたの家族は日本的なんだ。いや古いからいい面があるんで、弟さんがかつてあれだけ言われて四面楚歌になったときも、堂々とかばったものね。
美空 あの当時、本当にいろんなことがあったけど、つまずいて転んだら肉親しか抱き起してやれないというのが家のモットーでした。でもそれをわかってもらえる人って少なかった。
遠藤 それはお母さんがいつもおっしゃってたの。
美空 はい、そうです。
遠藤 昔の友だち、たとえば雪村さんなんかに会うことはあるの。
美空 ときどき。悲しいときだけ電話したり。それが友だちじゃないかと思って。
遠藤 いや、昔映画で見ていたひばりちゃんから、三十年後にこういう話を聞こうとは夢にも思わなかったです。(終)
(『夕刊フジ』 昭和59年5月13日付)
Re: 対談 遠藤周作 - まろや (女性)
2024/04/30 (Tue) 09:53:38
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さとみ 様
読み応えのある対談でした。
当時、読んでいる筈なのにすっかり内容を忘れてました。
投稿してくださりありがとうございます。
質問される遠藤周作さんはひばりさんを良く理解されていると思われますし、ひばりさんも素直に本音で語られています。
お二人の間にしっかりと信頼感が在るのが伝わってき良い対談でした。
実際の対談時間はもっと長かったのを編集されてるのでしょうし、録音していると思うので全部テープ起こししてほしいです。
今後もこのような対談の投稿を宜しくお願いします。