対談 遠藤周作 - さとみ (男性)
2024/04/27 (Sat) 08:46:20
112.169.201.84
※投稿が長くなるので、別投稿にさせていただきました。
「狐狸庵ぐうたら怠談」 その3
◆恋
遠藤 この十年間、あなたはずいぶんイジメられたものね。だから人間が信じられなくなったという気持ちは分かるよ。
美空 でもやっぱり信じたいですね。口ではなんのかのと言ってますけど。
遠藤 恋愛をしてみたら。これは信じられるよ。
美空 ええ、いろんな人がいるんですけど、好きな人。でも自分のほうばっかり。
遠藤 美空ひばりなら片思いってことはあり得ないでしょう。
美空 あるんですねえ。
遠藤 本当はあなたは、根は内気なんだものねえ。
美空 私が好きだってことを相手に伝えないから。
遠藤 言葉では伝えないけど、あなたの性格ならたとえばプレゼントしたりして伝えるでしょう。
美空 そうです。
遠藤 私はもらったことがない(笑)。相手は気づかないのか。
美空 気づいているんじゃないですか。
遠藤 その人は、どうしていますか。
美空 気づいているんだけど、やっぱりわたくしとのギャラの差を考えたりすると……。男の人のほうが下になっちゃうのは、くやしいんじゃないでしょうか。日本の男性は特に女には負けたくないですから。
遠藤 そうかあ、ぼくはそうではないけれど(笑)。
美空 スポーツ界にもずいぶん好きなひとはいるんですけど。
遠藤 野球人か。まさか、あなた…あの人と?
美空 (あわてて)野球もいるんです。お相撲もいるんですよ。
遠藤 そろそろもういっぺん結婚?
美空 いまは考えてません。家を建てるって言っちゃったから結婚は遠のいたんです。つまりそこの主人になって、納まる形になるから。だからそこの養子みたいになっちゃう、そういう男の人ってどうですかね。
遠藤 ぼくはカマわないよ(笑)。彼がちゃんと働いて……。
美空 彼だなんて何かもういるみたい。先生は決めちゃってるんだもの、もう。
遠藤 あなたが貢ぎ物をしてもプレゼントをしても知らん顔しとる人は、東京に棲息しているのかね。
美空 はっきりした人じゃないんですけど、いろいろいたほうがいいんじゃないですか。男の人をみてぜんぜん感じなくなったわけじゃないからまだ大丈夫です。色気を感じるから。そうじゃないといけないんです。私たちは色気がなくなったら。
遠藤 あのね、五、六年前だけど週刊誌の記者に、「じつはオレはいま美空ひばりと恋愛しとるんだけど、君のところでそれを書かんか」って言った。
美空 (驚いて)そんなことを。
遠藤 あなたには言わなかったけど。そしたらその記者が上目づかいにこっちの顔をみてセセら笑った。そんなことは信じませんって。
美空 あら失礼、失礼ねえ。
遠藤 写真もなにもこっちからやるって言ったんだが。……二人で乗った新幹線とか、二人で歩いた並木道の写真とか。
美空 先生と私、いくつ違うんですか。
遠藤 十くらいじゃないでしょうか。
美空 十二ですよね。
遠藤 だから別におかしくないじゃないか。どこかで書いてくれんかなア。美空ひばりとオレと恋愛してるって。そしたら「いまは何も語りたくない」って言いたい。美空ひばりとの恋愛、長いこと憧れとったんだ。その相撲の人とはやめて、ぼくにしませんか。
美空 いやです。
(『夕刊フジ』 昭和59年5月10日付)
※投稿画像はイメージです。